取引コストが見た目の合理性を失わせる -投資信託購入を事例に-

「取引コスト」という言葉をご存知でしょうか?


恥ずかしながら、私は昨日読んだ、「スタバではグランデを買え!(吉本佳生)[Amazon]
という本で初めて得た知識なのですが、経済学ではかなり有名な理論のようで、
1991年にノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コース教授が提唱した
経済取引上発生するコスト(費用)の事だそうです。

名前からして取引上発生するコストである事は分かるのですが、
その定義はかなり幅広く、吉本佳生氏の取引コストに関する解説を引用すると、

「時間と労力(手間)、余分なお金の支出、他の資産の使用、心理的負担」といったものが、
買い物の代金とは別にかかる時、それを取引コストと呼びます。(P.23)


と、定めることが出来るそうです。


これだけだとまだ分かりずらいので、
事例として金融商品の一つである投資信託について考えてみましょう。



投資信託は購入する金融機関毎に手数料が異なる事は有名なお話です。

例えば日本で最も有名な投資信託の一つであるグロソブの愛称で知られる、
グローバルソブリンオープン(毎月決算型)」が、実際にどの様な手数料で
販売されているのか見てみましょう。


グロソブ金融機関別手数料

※データはモーニングスターから引用(100万円未満の購入金額の手数料)
URL:モーニングスター|購入手数料別販売会社比較[グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)]


このように、同じ投資信託であるにもかかわらず、
購入先によっては異なる手数料率が導入されています。


これを踏まえて、取引コストの話に戻りましょう。


例えば既に普通預金口座を保有しているりそな銀行や横浜銀行等であれば、
楽天証券やSBI証券等ネット証券と異なり、ごく身近にある銀行の窓口で
投資信託用口座を新たに開設すれば投資信託の購入が可能になります。

窓口であれば書類上の分からない点は聞きながらできますし、
買い付け代金の引き落とし口座先は既に保有している普通預金口座となる為、
ネット証券の口座開設に比べて比較的簡単に取引まで進む事が出来ます。


それに比べて楽天証券やSBI証券等はあくまでもネット証券ですから、
一部店舗での開設が出来るものの、その多くはインターネット上で申し込みを行い、
その後必要書類に必要事項を記入し、本人確認資料のコピーを添付して郵送する事になります。

また、記入に関して分からない点はコールセンターや開設画面を参考に行う事となりますが、
電話を掛けたり調べる労力や時間が必要となります。

それ以上に必要なのはインターネットが出来る環境が自宅にある事が前提です。
当然、パソコンが無ければパソコンの購入費用、インターネット回線の開設と維持費用、
それらの契約をする時に書類を書く「時間」や「労力」の費用、
そして何より「他の資産の使用」を前提とする事で発生する「余分なお金の支出」や、
慣れない事をするうえで発生する「心理的負担」が新たな取引コストとして発生するわけです。


そもそもインターネットの利用が未経験であれば、
モーニングスター社のサイトで金融機関毎の投資信託販売手数料の比較自体が出来ません。
手数料が異なる事を知るというステップにも、情報を探し出す取引コストが発生しているわけです。


このように、取引コストを考慮したうえで上記手数料の差異を見てみると、
インターネットの環境が自宅に無い人について、例えば1万円購入する人と1億円購入する人を
比較するとどうなるでしょうか?


1万円の購入時にかかる手数料差異は最大で158円です。
しかし、1億円の場合は最大158万円も差が出る事になります。
(※手数料率は100万円未満の数字をそのまま使用)


1万円購入する人は158円のコスト対価と、上記で示したような
インターネットの取引環境設置に関する取引コストを比較した場合、
「ネット証券に口座を開設しない」という選択肢の方がコスト負担は安い、
という判断が非合理的とは言い難い
ことが分かります。

逆に、1億円購入する人は人を雇ってでも自宅にインターネット環境を整え、
ネット証券を通じで投資信託を購入する方がはるかに合理的と言えるでしょう。



このように、取引コストを考えた場合、
一見非合理的な行動に見える行為も実際は合理的である可能性もあり、
また、合理性があると判断される行為も非合理的であるともいえるわけです。

こういった見えないコストを考える行為そのものにも、
取引コストがかかっている
点も見逃せませんね。



スタバではグランデを買え!
価格と生活の経済学 (ちくま文庫)
吉本 佳生 (著)[amazon]


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コスト

お金のコストだけではなく、時間のコストというのも考えなくてはいけなんですね。「時間は効率的に投資するもの」という考え方は知っているのですが、まだまだみたいです。。。

返信

>>お金のコストだけではなく、時間のコストというのも考えなくてはいけなんですね。「時間は効率的に投資するもの」という考え方は知っているのですが、まだまだみたいです。。。

コメントありがとうございます。

そうですね、時間のコストはとても重要だと思います。
この辺りは私の場合、時給換算してバイトに比べて得か損か、
を考えると結論は出しやすいと考えています。

また、何かをするのが面倒だと感じる精神的な負担や
疲労感等の心理的コストも考慮にいれる必要があると思います。

「この歳で新しい事を始めるのは...」と考えてしまうのも
心理的コストですね。

考え出すときりが無いのですが、
自分にとって本当は何が得か、
を考えることも時には必要だという所でしょうか。

返信ありがとうございます

そう考えるといろいろなものがコストになりそうですね。
ということは、コストについて考えすぎるのもコストになるのでしょうか?

コストを無意識に削減できるような頭を持てればいいのですが。。
もしくはそういう仕組みを作るべきなんですかね。

コスト意識

コストを考えすぎるのもコストである、という認識は正しいと思います。
ただし、それが目先のコストなのか、将来に渡って掛かるコストなのか、
その点だけは分けて考える方が宜しいと思います。

例えば、家電製品など、単一の物を購入する時に
多数の店舗で価格の交渉を行ったり、スペック差異を比較する事は、
その時間コストを考えた場合本当に利益となるのかを検討する必要があります。

逆に、固定資産税や住宅ローン、信託報酬や手数料等、
保有或いは反復継続する事で長期的に負担が継続するものに関しては、
初期コストとして時間を投下したとしても最終的に回収できる見込みがあれば
やるべきだと思います。

そういう点では、仕組みづくりというのは大事だと思います。
企業でもシステム化がコスト削減には重要であるのと同じように、
個人レベルでもその辺りは少し意識する分には良いと思います。

考えすぎる、或いは時間を掛け過ぎるのも困りものではありますが(^^;
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プロフィール

楽天家業

Author:楽天家業

 大学在学中から事業でお金を貯め、それを元手に卒業後は個人トレーダーとして生計を立てていました。(現在はトレード業務一部復活)

 2008年のリーマンショック時に信用取引による過剰リスク状態で惨敗。そんな手痛い経験もあり、このままの人生で良いのかと自分を見つめ直し、同年からウェブサイトの作成業務、2009年からは独立系FPとして相談業務を行うため、自分の経験を活かして日夜、ファイナンシャルプランナーの分野で活動を行っています。

<略年表>
2009年9月AFP登録
2011年7月CFP登録

 現在、主にFP法人様や執筆関連でお仕事承っております。

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